記憶が、ない
「いやー困った! 困り果てた」
「どうしたよ朝から」
「キテルネからのキングアンドプリンスのメダルラッシュ見ててさ」
「なんの話だかさっぱりだぞ」
「昨日までの記憶がほとんどないことに気づいたんだよ」
「それはまずい」
「一昨日の晩ご飯すら思い出せない」
「まあそんなものだけどな」
「隣の晩ご飯も思い出せない」
「それはあれだ、昭和の番組だ」
「TOKIOの五人目も思い出せない」
「思い出さなくていいやつだ」
「あ、やばい。妻の名すら分からなくなってる!」
「おたく独身だったよね」
「現実きびしー。思い出させるなよ」
「大丈夫だよ。この間の合コンだって手応えあったって言ってたし」
「なんの合コンだっけ。あれか、クオーター合コンか」
「メンバー集まらないだろう」
「無理か。攻撃の要ばっかり何人も集まるかって話か」
「まさかアメフトの話をしてるのか?」
「じゃなく?」
「素で驚いてんじゃねえよって。ハードル高すぎな合コンだろう」
「400障害のほうか」
「そのハードルでもないや。なんか記憶の話以前だわ」
「でも不思議なのはさ、名前も住所も思い出せるんだ」
「まあ根本的な情報は忘れないものだから」
「でも年齢はわからないんだ」
「根本的なのきたな」
「しかも妻どころか彼女も思い出せないなんて」
「記憶と願望が入り乱れてるぞ」
「戦国の乱世のように?」
「どのようにかは知らないよ」
「今大騒ぎの、なんだっけ、パロマウイルス?」
「それわざとだろ」
「それすら記憶が曖昧で、あ、まさか!」
「いや、感染してないから。そういうんじゃないから」
「記憶テストする。ハワイ、ジャマイカ」
「なんだよ怖いな」
「タンザニア?」
「上目遣いに質問されても」
「世界三大コーヒー産地な」
「雑学かよ」
「不倫火山を掲げたのは誰だったか。鈴木?」
「やめろ。雑学ですらない」
「まあとにかく、合コンから始めようよ」
「自分探しの旅な」
「ハーフ合コンな」
「だから人数が」
「フル?」
「走んのかよ」